【訪日ラボの目線 インバウンド市場を読み解く 15】中国ならではの「洗肺」需要 きれいな空気求めて日本へ


 今、中国人観光客の間でバズワード(主にSNS上で流行・拡散されているキーワード)に「洗肺(シーフェイ)」というものがある。読んで字のごとく「きれいな空気で肺を洗う」という意味で、それがために日本の空気のきれいな地方へ足を運ぶのがブームになっている。大気汚染に悩む実に中国らしいムーブメントだ。

 インバウンドにおける中国人観光客の消費マインドに「きれいな空気」というニーズは、実は以前からあった。「爆買い」が話題となった2015年、免税店での売れ筋商品ランキングには日本製の炊飯器や温水便座に続き、空気清浄機が食い込んでいた。ちょうど、16年の春節期間には、PM2.5濃度が200マイクロメートル以上を観測し「重度レベル」と評価されるほど深刻な状況となっていたのだ。

 さて今回のテーマの「洗肺」だが、今では観光用語として使われているものの、もとはれっきとした医療用語だ。全身麻酔の上、薬液を用いて文字通り「肺を洗う」手術をすることが、予防や循環器系の治療法として確立しているのだ。

 ここから転じて、16年下半期ごろから「洗肺」が観光用語として広まり始めたのだが、ちょうどこの頃は「爆買い」に陰りが見え、インバウンドのトレンドが「モノ消費」から「コト消費」に移行したタイミングだ。中国人観光客は一通り日本での買い物を楽しんだ上、「爆買い」ブームの頃より円高になってしまった影響で「買い物以外の訪日旅行の次の楽しみ」が掘り起こされ始めたのだ。

 そしてこの頃から、中国のSNS「微博(ウェイボー)」や旅行体験サイト「馬蜂窩(マーファンウォー)」などで、日本の自然や田舎の雰囲気のある地方で「洗肺」することが注目を集めた。中国の大気汚染の裏返しのきれいな空気へのニーズ、そして「他の人よりディープな日本を知っている」アピールがあいまって、中国ネット上で一気に広まった、という経緯をとげる。このトレンドは、特に消費力の高い中国人観光客を誘致したい地方にとって、大きな商機になるだろう。

(連載おわり)

 
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